福岡高等裁判所 昭和35年(ラ)145号 決定 1960年11月14日
抗告人 関谷虎夫
主文
本件抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人の負担とする。
理由
本件抗告理由の要旨は
第一点
本件競売期日における最低競売価額の決定が不当であるから競売手続を続行することはできない。
すなわち本件において、昭和三五年三月七日の競売期日における最低競売価額は金一、〇七一、〇〇〇円と定められていたところ、同日松尾稲雄外一人がこれを上廻る金一、七二一、〇〇〇円の競買申出をして最高価競買人となり、競落許可決定を得たが、同人等が競落代金を納入しなかつたため再競売となり、再競売後の新期日における最低競売価額を金一、〇七一、〇〇〇円と決定し、昭和三五年五月二三日の競売期日に松尾繁子外一人が右金額で競買し、本件競落許可決定を得たのである。しかし新競売をなすときは裁判所は売却条件を害しない限りにおいてのみ、最低競売価額を低減することができるのであつて、売却条件を害しないとは、債務者の利益を第一義とし、これに立脚して最低競売価額を決定するのが公平であると共に、社会正義に合致する次第でもある。されば再競売前の最高競買価格である前記金一、七二一、〇〇〇円をもつて、再競売後の最低競売価額と定めるを相当とするに拘らず、これを金一、〇七一、〇〇〇円と定めたのは違法であると思料する。
第二点
本件競売は過剰売却であり、競落は許されない。
本件不動産に対する第一乃至第三順位の抵当権の債権額及び未納税金額の合計は金一、五九三、四一七円であり、他に執行費用約一五、〇〇〇円が見込まれる。これに対し本件競売により得たる売却代金は
(イ) 一一八、九一〇円 第一回競落人陳敬信の競買保証金
(ロ) 一七二、一〇〇円 第二回競落人松尾稲雄外一人の競買保証金
(ハ) 六五〇、〇〇〇円 松尾稲雄外一人の民訴六八八条六項による負担金
(ニ) 一、〇七一、〇〇〇円 競落代金
以上合計二、〇一二、〇一〇円となる。よつて右売却代金から前記債権額等を控除すれば、約四〇万円の余剰があり、これと本件建物の評価格とが同一であるところからして、土地二筆の売却をもつて足りることが判明する。なお第一順位の抵当債権は事実上存在しないから、これを控除すれば更に余剰が増すのである
というのである。
右に対し当裁判所は次のとおり判断する。
第一点について。
しかし競落人の代金不払のため再競売をなすときは、その再競売の最低競売価額は、再競売の直前の競売期日(前競落人が競買した期日)において定められた最低競売価額をもつて、これを定むべきことは民訴六八八条二項の定めるところである。この場合裁判所がその裁量により、前競落人の競買価格を参照して、従前の最低競売価額を上廻る金額を定めることは、もとより可能であると考えられるが、その措置をとらなかつたからといつて、これを違法とすることはできない。所論は独自の見解に基くものであり採用の限りでない。
同第二点について。
記録に徴すれば、本件競売の目的不動産は土地及びその地上建物であつて、原審はこれを一括競売に付する旨の決定をしているのであるから、この場合は売却代金が不動産の負担する債権及び執行費用等の総額を上廻る場合でも、民訴六七五条の適用はないものと解すべきである。のみならず抗告人主張の、前競落人松尾稲雄外一人が民訴六八八条六項により負担すべき金六五万円(正確には、これから同人等の納入した競買保証金一七二、一〇〇円を控除した金四七七、九〇〇円)は、裁判所において直接これを取立てるものでなく、競売手続の債権者もしくは債務者から、競売手続外において、前競落人に対しこれを請求する外ないものであるから(その実効性も保障されていない)、該金額を民訴六七五条一項の売得金に含ませることはできないと解するを相当とする。さすれば本件競売の売得金により、抗告人主張のような余剰を生ずるものとは認められず右主張もまた理由がない。
その他記録を精査するも、原決定には何ら違法の点なく、本件抗告は理由がないから、これを棄却すべきものとし民事訴訟法第八九条を適用し主文のとおり決定する。
(裁判官 竹下利之右衛門 小西信三 岩永金次郎)